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労働基準監督署へ多く寄せられる相談事例

労働基準監督署に相談して解決できることはどんなものがあるか。
労働基準法とその関連法に明確に違反している場合に相談することができます。民事的な判断が要求されるような事例、例えば「パワハラやセクハラがあった」「不当な懲戒処分」「不当解雇」「不当な左遷」など、「不当」かどうか労働基準監督署が判断することができません。これらは、助言・指導・あっせんなど、個別労働紛争解決制度が設けられている労働局へ相談するといいでしょう。労働基準監督署の上部機関にあたり、各都道府県に設置されています。
それでは「労働基準監督署へ多く寄せられる相談事例」についてご紹介します。

採用、労働条件に関する相談
労働者:入社してみたら、職安の求人票の内容と違っていました。このようなことは許されるのですか?
求人票は就業規則等に基づいて記載する必要がありますが、その内容がそのまま労働契約となるわけではありません。実際の労働契約と職安の求人票の内容と違ったという事実をもって、労働基準監督署が対処することは難しいでしょう。ただし、労働契約は労働条件を明確にすると、労働基準法で定めています。この場合だと、ハローワークに相談するのが適切といえます。
使用者:求人票があっても、労働契約書など書面を発行する必要がありますか?
契約期間・就業場所・業務内容・就業時間・賃金といった労働条件を明示することが、労働基準法で定められいます。労働者が希望した場合は、ファックス、メールですることも認められています。
使用者:1日3000円でいいから働きたいといっているのに最低賃金以上を支払う必要がありますか?
最低賃金法により、最低賃金以上支払うことが定められています。仮に合意があったとしても原則的に無効となります。
使用者:社員が営業車をぶつけたときに修理代を負担させたいのですが就業規則で定めることはできますか?
労働基準法で、あらかじめ損害賠償額を予定する契約は禁じられていますが、現実に労働者に帰責事由がある損害について、賠償を請求することはできます。

解雇に関する相談
労働者:いきなり「今日でクビだ」と言われました。このようなことは許されるのですか?
正当な理由なく解雇することはできません。正当な理由とは、①客観的に合理的な理由②社会通念上の相当性が問われます。前述の通り、労働基準監督署が解雇の違法性を問うことはできても、正当性を判断することはできません。納得できない場合は、労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナーにご相談ください。
ただし解雇するためには、30日前の予告と、解雇予告手当金を使用者が支払う必要がありますが、それも解雇が有効であることが前提となります。
①客観的に合理的な理由②社会通念上の相当性が問われますので、そのミスが業務にどれほどの支障があるか、他の部署に異動することはできないか、など個別に判断する必要があります。
労働者:「仕事がないから会社に来なくていい」と言われました。これは解雇にあたりますか?
休業の可能性もあるため、解雇なのかどうか明確にしてもらう必要があります。
労働者:試用期間の終了と同時に「うちの仕事に合わないから」という理由で即日解雇されたのですが仕方ないことですか?
労働基準法では試用期間中の者を解雇する場合、採用から14日以内であれば解雇予告をしなくても良いとしています。ただし試用期間中でも労働契約は成立しています。労働者は解雇理由証明書の交付を請求することで、解雇の正当性を争うことができます。
使用者:「一ヶ月様子を見て改善されない場合は解雇する」と通達し、改善が見られないので即日解雇したいのですが可能ですか?
即日解雇することはできません。解雇予告は解雇の日を特定する必要があり、条件付き予告では、解雇の日を特定することができません。30日以上前に解雇予告と、別に解雇予告手当金を支払う必要があります。
使用者:解雇に書面は必要ですか・
解雇予告を書面でしなくてはならないという決まりはありませんが、解雇の正当性に争いが生じた場合、書証がないと証明が困難となる可能性があります。なお、労働者から請求があった場合には、解雇または退職の事実、解雇の理由等を記した証明書を交付することが、労働基準法で定められています。

賃金に関する相談
使用者:給料日が会社の休日の場合、次の営業日に支払う取り決めは違法ですか?
合法です。賃金の支払い期日を就業規則等で「給料日が会社所定の休日の場合、次の営業日に支払う」と規定することが必要です。
使用者:売り上げが下がって経営が厳しいです。賃金引き下げは可能ですか?
可能です。ただし労働者にとって不利益な変更となるため、一方的に引き下げることには問題があります(労働契約法8・9・10条)。労使間で十分に話し合って決めてください。
労働者:営業車で単独自損事故を起こしてしまいました。修理代8万円のうち、4万円を私が負担、給与から2万円づつ2回にわたって支払うことを通告されましたが、これには従わなければなりませんか?
労働基準法24条で、賃金全額払いが原則です。判例によると、賃金と相殺することは、労働者の自由意志のもと、労使間で合意があったならば、全額払いの原則によって禁止されるものではないと判断したことがありますので参考にしてください。
使用者:台風で従業員の安全を考慮し休業させたいが無給で問題ないですか?
「使用者の責に帰すべき事由による休業」であれば、休業手当が必要ですが、不可応力であればこの限りではありません。台風が不可抗力にあたるかどうかですが、「会社周辺に避難勧告が出ている」「台風により設備が損傷し仕事ができない」「地域一帯が停電」などは、不可抗力にあたると考えられているので、保障の必要はないと考えられます。よく問題とされるのが、交通機関がストップした場合。出社できない社員については不可抗力、出社できる社員はそうでないと考えられています。一律休業とした場合、出社できた者については休業手当を支払う必要があるということになります。

労働時間に関する相談
労働者:早朝から夜遅くまで働いていますが、お昼と夕食の休憩がろくに取れません。しかも休憩時間は「急な応援も対処できるよう待機してくれ」と言われてますが、指示に従う必要がありますか?
労働基準法34条で、労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分の休憩時間を与えることが定められています。また、休憩時間とは労働から離れることを保障されている時間なので、いわゆる手待ち時間とは異なります。手待ち時間として認められれば労働時間となります。休憩時間については、いま一度確認してみることをおススメします。
使用者:社内で行う自主的な勉強会は労働時間になりますか?
労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間をいいます。したがって、労働者が自由意志のもと参加している、使用者の関与がほとんどない、このような状態であれば労働時間とみなされる可能性は低くなります。

そのほかの相談
労働者:明日にでも辞めたいのですが問題ありますか?
民法上の規定では14日前までに退職の意思表示が必要とされています。ただし、入社時に提示された労働条件が事実と異なった場合、労働者は即時に労働契約を解除することができるといった、例外的な取り決めもあります。

労働者:退職するので会社に有給休暇を買い上げてもらうよう請求しましたが断られました。会社の対応に問題はありませんか?
法的に問題はないと考えられます。退職の際、有給の残日数に応じて金銭を給付することは労働基準法に反するものではありませんが、一方で買い上げすることを義務付けられてもいません。なお、残日数を有休として消化することは可能ですが、業務の引継ぎなどに支障をきたすような場合、話し合ったうえで解決することが望ましいといえます。

使用者:健康診断は義務ですか?賃金は支払う必要がありますか?
労働安全衛生法66条で、使用者は労働者に対して、医師による健康診断を義務付けています。労働者の健康確保が目的で、業務との関連で行われるものではありませんが、同法66条1項「労働者の健康確保は、事業の円滑な運営には必要不可欠のもの」から考えると、賃金を支払うことが望ましいでしょう。

労働者:健康診断や履歴書など、個人のプライバシーにかかわるものを会社で保管することを拒否できますか?
プライバシーを理由にするならば、健康診断結果や履歴書だけでなく、社会保険関係書類や年末調整に関する書類なども、会社が保管できなくなります。閲覧権限や保管方法について相談するなど、じっくり会社と話し合うことが必要ではないでしょうか。

労働者:労働基準監督署は匿名で相談できますか?
匿名で「相談」と「通報」をすることは可能です。しかし「申告」をすることはできません。相談や通報は、解決法やアドバイスを受けるために行うのが一般的ですが、申告は、労働基準法に違反している会社に対し、行政処分といった公権力の発動を促す行為です。申告には、氏名・住所を記入する必要があるため、匿名で行うことはできないのです。

労働基準監督署のお話
労働者が労働基準監督署に相談に行ってもお役所仕事で何もしてくれないという話をよく聞きます。「まずは自分で会社と相談してください」「ブラック企業かどうかの判断はできません」など。担当者の人柄や人手不足などの理由で、そのような対応になることもあるかもしれませんが、相談者に準備が足りていないケースも少なくありません。前述のとおり、労働基準監督署は「違法性」を問うことはできても「正当かどうか」の判断をすることができないため、客観的書証、例えばタイムカードや就業規則、給与明細などがないと調査できないということも考えられます。
労使双方の立場から事例を研究することは、企業の労務対策でも有効となります。
企業に是正勧告書や指導票などの提出を求められる事例も少なくありませんので、
事前に対策をしておくことをお勧めいたします。

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